つくば と 水戸 で表千家のお茶の教室を運営する 楽知会(主宰 石光宗眞)のブログです。 初心者にも、上級者にもご満足いただける本格的な茶道教室を目指しています。 楽知会が取り組む お茶のお稽古や、お茶事関係の情報を掲載していきます。
「手掛かり」を開けておきましょう・・・・?
昔の日本家屋では「引き戸」あるいは「引き違い戸」が多く用いられていました。これは襖や障子など敷居と鴨居の溝にはめて左右に開け閉めする戸のことで、ちょうつがいを使って開閉する戸は「開き戸」と呼ばれています。最近建築された建物にお住まいの方のなかには「いくら探しても開き戸ばかりで引き戸は一つも見あたらない」とおっしゃる方がおありではないかと思いますが、お茶は引き戸が主流であった時代に考え出されたものです。従ってその特性が作法の中に上手にいかされています。一例をご紹介致しましょう。
亭主はお客様をお迎えする準備が整うと、玄関の戸を1寸(3センチ)ほど開けます。こうして意図的に作られた隙間のことを「手掛かり」と呼び、これを頼りに客は茶室へと導かれていくのです。つまり、戸がピタリと閉ざされている場合は「進入禁止」の合図であり、手掛かりが開いている場合は「どうぞこちらへお進み下さい」と手招きされていることになるのです。
客は1寸開いているところを見つけるとそこを開けて中へと入り、そこでまた1寸開いているところを見つけるとその次の部屋へと進みます。このようにして右も左もわからない初めて招かれた家であっても、また案内の人が一人も姿を現さなくても、目的のところまで優しく誘導されていきます。
先日「12時席入り」というご案内をいただいてある方の御茶事に招かれました。お茶の世界ではご案内の30分ほど前には先方に着いて、足袋をはきかえるなどの身支度を整え、心を落ち着けて席入りに備えることになっています。私と連れ2名もおよそ30分前には門前に到着致しました。玄関から門の前まではほどよく打ち水がされ、客を迎える準備が首尾よく整っているかに見えます。ところが玄関の戸はピッタリ閉まり5分(1.5センチ)の隙間もありません。「まだなのね」と連れに目で合図を送り、しばし外で待つことにいたしました。
待つ場所は・・・といえば、先方からは直接見えないけれどもこちらからはある程度気配を感じられる所です。
それはそうですよ・・・だって、御亭主は私たちのために何ヶ月も前から道具組を考え、お茶だ、お菓子だと走り回って下さっている上に、ここ数日は、はいつくばってお掃除に時間を割いて下さったに相違ないのですから・・・門の前に突っ立て、手掛かりが開くと同時にドヤドヤ押し入るというような無礼なまねは致しません。
そんなことをしようものなら・・・何も言わなくたって・・・「アンタ今まで何やってたのよ・・・ちょっと遅いんじゃないの・・・?私たちさっきから待ってんだから・・・」ということになってしまいます。
私たちも最初は路地の角をまがった所に日陰をみつけて、そこで余裕をもって待っていました。ところが、5分たっても10分たっても玄関の戸は閉ざされたまま。何度か門の前を行きつ戻りつして様子を窺ってみましたが、ひっそりと静まりかえって物音一つ聞こえません。だんだん心配になってきました。
「巧者といわれる今日のご亭主に限ってまさか手掛かりを忘れるということがあるのかしら」「イヤイヤ、もしかすると半東さんが不慣れなのかも・・・ご亭主は半東さんがすでに開けてくれたと信じ込んでいるのかもしれない」等々協議することしばし。
さらにそれから5分以上待ったところで意を決して玄関の戸をガラガラッと開けました。
イヤーァ その時のビックリしたことと言ったら・・・だって、ワタシの鼻の1センチ向こうにはご亭主の鼻と大きく見開いた目があったのですから。
まさにその時、ご亭主も手掛かりを開けに出てきて下さったところだったのですね。
今まで豆鉄砲をくらった鳩の顔というのを見たことはありません。見なくったってそれがどんな顔なのか よくよく分かるようになったのはその時のことです。
これはどちらの失敗だったのでしょう。私たちがもう少し気長に待っていればよかったのか、それともご亭主がもう少し早く手掛かりを開けて下さればよかったのか。またしても「客の失敗は亭主の失敗。亭主の失敗は客の失敗。」という言葉を思いおこしてしまいました。
さてお稽古の時、稽古場の玄関はどのようになっているのでしょうか。もちろん私は準備が整うと玄関の戸を1寸開けております。当社中は予約制でお稽古をさせていただいておりますから、予定されている方々が全員お揃いになるまでは手掛かり分開けられた状態に保たれていることを望んでおります。そして、最後の方が到着なさった時にピタリと閉められることも。但し、格別に風雨の強い日はその限りではありません。何事にも例外のないことはございません。皆様が臨機応変に対応して下さるものと期待しております。
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